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アンヘレス廃人となった男 かつて教祖と呼ばれた男の転落

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序章 教祖と呼ばれた男

これは、アンヘレスで廃人になってしまった、一人の男の物語である。

かつて彼は、多くの人から「教祖」と呼ばれ、周囲に担ぎ上げられていた。人を引きつける言葉を持ち、その言葉を信じて集まる人間も少なくなかった。彼自身もまた、自分は人とは違う特別な存在なのだと、いつしか思うようになっていたのかもしれない。

その男は今、フィリピンのアンヘレスで暮らしている。日本から持ち込んだ多くの金を使い、当初は何不自由のない生活を送っていた。しかし、その裏側には、日本で経営していた会社を潰し、必要な整理を終えないまま逃げるようにフィリピンへ渡ったという事情があった。

金を持っていた頃の彼は、誰の目にも自由に見えた。だが、その自由は、自分の人生に向き合った末に手に入れたものではなかった。彼は過去を置き去りにしたまま、アンヘレスという街に流れ着いたのである。

第一章 順風満帆だった人生

彼は関西の田舎町で生まれ、厳格な父と母のもとで育った。決して自由奔放な家庭ではなかった。何が正しく、何が間違っているのか。人はどう生きるべきなのか。幼い頃から、厳しいしつけの中でそれを教えられてきた。

勉強もできた。やがて国立大学へ進み、社会に出てからは会社を経営するまでになった。学歴があり、仕事があり、社会的な立場も財産もあった。少なくとも周囲の人間には、彼の人生は順風満帆に見えていた。

私が初めて彼に会ったときも、印象は悪くなかった。むしろ、その反対だった。彼の対応は真摯で、話し方にも落ち着きがあった。私は素直に、「誠実で真面目な人なのだ」と思った。後に目にすることになる彼の姿を、そのときの私は想像することもできなかった。

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第二章 金で始まった愛

アンヘレスで、彼はBF嬢を妻に迎えた。そして、妻がいながら、別のBF嬢を愛人にした。妻も愛人も、彼が持っていた金と無関係ではなかった。それでも彼は、そこに本当の愛があると信じていた。

金を渡せば笑顔が返ってくる。生活を支えれば、そばにいてくれる。必要とされている間、彼はそれを愛だと思うことができた。金の力で作られた安心を、心と心の結びつきだと信じたかったのだろう。

愛人は彼より三十歳以上も若かった。年齢も、生きてきた環境も、これから望む人生も違う。それでも、金があるうちは二人の違いを覆い隠すことができた。彼は若い女性を手放したくなかった。そして、女性を金で買うこともやめられなかった。

彼は言う。『バーファインから始まる愛もある』と。店で金を払い、女性を連れ出し、身体の関係を持つ。その先に本当の愛が生まれるのだという。そして、『男はみんな同じだ』と何度も言い切る。金で始まった関係と、純粋な愛を同じものとして考える。その感覚のズレこそが、彼の本性なのかもしれない。

昨日も、今日も、そして明日も。彼は自分を求めてくれる女性を探し続けた。相手が自分自身を愛しているのか、それとも自分が渡す金を必要としているのか。その違いを考えないようにしていたのかもしれない。

第三章 金の切れ目

だが、持ってきた金は無限ではなかった。使えば減る。当たり前のことから、彼は目をそらし続けた。

やがて資金が底をつき始めると、悠々自適だったアンヘレスでの生活は音を立てて崩れ始めた。妻との関係も終わった。金によってつながっていた妻は彼のもとを去り、今では彼に強い恨みを抱いているという。金の切れ目が縁の切れ目。その言葉を、そのまま形にしたような結末だった。

それでも生活は続く。彼はさまざまなスモールビジネスに手を出し、何とか食いつなごうとした。しかし、何を始めても思うようにはいかなかった。新しい商売を始めては失敗し、次の話に飛びついては、また行き詰まる。かつて会社を経営していたという自負だけが残り、現実はそれについてこなかった。

金を失うにつれて、彼の心もすさんでいった。私が最初に会ったときの真摯で真面目な男は、少しずつ姿を消していった。代わりに現れたのは、金に執着し、人の懐ばかりを気にする男だった。

第四章 すべて人のせい

嫌なことが起これば、すべて人のせい。商売がうまくいかなければ相手が悪い。人間関係が壊れれば、去っていった人間に問題がある。彼の口から出てくるのは、周囲への不満と悪口ばかりになった。

彼にも、彼なりの道徳観は確かにある。人として、してはいけないことを語ることもある。しかし、自分がその道徳に反したときだけは、必ず理由がついた。自分は仕方がなかった。相手が先に悪いことをした。自分は被害者なのだ。そう考えることで、彼は自分を守り続けた。

そんな彼を心配し、手を差し伸べた人は何人もいた。金を貸した人、食事をおごった人、仕事の話を持ってきた人、生活を立て直すよう忠告した人。だが、私の知る限り、彼はその善意のほとんどを裏切るような行動で返してきた。

それでも彼には、自分が誰かを裏切ったという認識がない。『自分は悪くない。相手が悪かったんだ』。その考えを繰り返すたび、助けてくれた人との縁が切れていった。

第五章 去っていく人々

一人、また一人と、彼のもとから人が去っていった。最初はにぎやかだった彼の周囲も、気がつけば人がまばらになっていた。

彼はその現実に気づいているのだろうか。おそらく、気づいていない。あるいは、気づきながら認めたくないのだろう。『誰かが去っても、また新しい人間が来る』。そんな安易な考えが、彼の中にはあるように見えた。

人に食事をおごってもらっても、感謝する様子はほとんどない。『あの人は金を持っているのだから、払って当然だ』。人の成功を見れば、『どうしてあいつが金を持っているんだ。羨ましい』。自分が得をするか、自分が損をしないか。今の彼は、そんな感情だけで動いているように見える。

六十歳を過ぎた今でも、彼は『自分は女性にモテる』と何度も繰り返す。それは自信というより、崩れかけた自尊心を守るための言葉に聞こえる。その一方で、他人の金や成功を羨む気持ちは人一倍強い。自分の現実には目を向けず、過去の自慢と他人への嫉妬にしがみついている。

かつては人から教祖と呼ばれた男が、今では他人の財布をあてにして生きている。学歴があり、会社があり、身分相応の暮らしを手にしていた男が、まるで物乞いのように、人の善意にすがるようになった。それでも、彼の口から『ありがとう』という言葉は出てこない。

第六章 最後に残った愛人

妻に去られた今、彼のそばには、当時知り合った愛人が残っている。しかし、彼女もまた、限界を迎えつつある。彼より三十歳以上も若い彼女には、彼女の生活がある。将来もある。そして今の彼には、彼女を養い続けるだけの力は、もう残されていない。

金がなくなったとき、二人の関係に何が残るのか。彼が信じてきた本当の愛は、そこで初めて試される。だが、おそらく彼女も、いずれ彼のもとを去るだろう。妻との関係がそうだったように、支えを失った関係は長く続かない。

彼自身も、その予感をどこかで感じているのかもしれない。だからこそ、愛人を手放したくない。だからこそ、生活が崖っぷちになった今も、女性を買うことをやめられない。自分を必要としてくれる若い女性がいなくなれば、彼には何も残らないと思っているのだろう。

第七章 帰れない男

現在、彼は妻に見放され、フィリピンの滞在ビザも切れている。愛人にも捨てられかねない。それでもなお、彼はフィリピンにいようとする。

なぜ、そこまでこの国に執着するのか。愛人を手放したくないからなのか。それとも、日本に残した会社を正式に処理しないまま逃げるように渡航したため、帰りたくても帰れない事情があるのか。

日本に戻れば、自分が置き去りにした問題と向き合わなければならない。アンヘレスに残れば、少なくとも今日一日は、過去を見なくて済む。だが、逃げ続けるためにも金は必要だ。その金は、もうない。

彼を支えていた妻は去った。彼を助けた人々も去った。最後に残った愛人も、去ろうとしている。逃げ場所だったはずのアンヘレスは、いつしか彼を閉じ込める場所へと変わっていた。

第八章 アンヘレスという街

アンヘレスという街は、人間を変えてしまう場所なのかもしれない。金があれば、多くの人が集まってくる。若い女性が笑いかけ、酒を飲み、男を特別な存在だと思わせてくれる。そこでは、一時の夢を現実だと勘違いすることができる。

彼ほどの学歴と社会的な立場を持っていた人間でさえ、この街で変わってしまった。金を使って女性を求め、金がなくなれば人におごらせ、他人の持ち物を羨み、自分さえ損をしなければいいと考えるようになった。

しかし、本当に街が彼を変えたのだろうか。アンヘレスが人を壊すのではなく、その人の中に隠れていた弱さをむき出しにする街なのかもしれない。金、酒、女性、見せかけの尊敬。欲しいものが簡単に手に入るように見える場所では、自分を律する力がなければ、欲望に終わりはない。

彼は女狂いになった。だが、女性そのものを愛していたのかは分からない。彼が愛していたのは、若い女性に必要とされている自分、金を持ち、人から特別扱いされる自分だったのではないか。

終章 正念場

彼にいま起きている問題は、愛人が去るかどうかだけではない。ビザが切れたことでも、商売が失敗したことでもない。根にあるのは、子どものように身勝手で、自分に都合よく物事を考える生き方を、いつ捨てられるのかという問題である。

嫌なことがあれば人のせいにする。助けられても感謝しない。人を裏切っても、相手が悪いと言い張る。誰かが去れば、また別の誰かを探せばいいと思う。その考えを変えない限り、場所を変えても、女を変えても、仕事を変えても、同じことが繰り返される。

他人を責めながら最後の一人まで失うのか。それとも、自分の過ちを認め、残された人生を立て直すのか。かつて教祖と呼ばれた男は今、誰かを導く立場ではない。自分自身を救えるかどうか、その瀬戸際に立っている。

彼は今、本当の正念場にいる。

感謝の心を失ったこの男に、いったいどんな末路が待っているのか。それは、神様にしか分からないだろう。

これは、アンヘレス廃人となった一人の男の話である。

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