第五章 アンヘレスで生きる女性たち
~彼女たちは何を夢見ているのか~
アンヘレスで働く女性たちは、毎日笑顔で客を迎えています。
明るく、おしゃべりが好きで、人懐っこい。
観光客から見れば、彼女たちはいつも楽しそうに見えるかもしれません。
バーの中では音楽が鳴り、女性たちは笑いながら客と酒を飲んでいます。
しかし、その笑顔の裏側には、外から見ているだけでは分からない現実があります。
生活があります。
家族があります。
将来への不安があります。
そして、お金という大きな問題があります。
私はアンヘレスで女性たちに話を聞く中で、何度も考えさせられてきました。
彼女たちは、いったい何のためにこの仕事をしているのか。
そして、この先にどのような人生を思い描いているのか。
彼女たちは何のために働いているのか
アンヘレスで働く女性に理由を尋ねると、多くの場合、
「家族のため」
「生活のため」
という答えが返ってきます。
実際に、両親へ仕送りをしている女性もいます。
兄弟や姉妹の学費を払っている女性もいます。
自分の子どもを育てている女性もいます。
家賃。
食費。
電気代。
病院代。
一人の女性が家族全体の生活を支えているケースも珍しくありません。
フィリピンでは、収入のある人が家族を助けることは特別なことではありません。
自分一人が生活できればいいのではなく、家族や親戚まで支えなければならない女性もいます。
だから彼女たちは、
「ほかに方法がない」
「普通の仕事では足りない」
と話します。
しかし、長く女性たちを見ていると、理由は家族のためだけではないことも分かってきます。
普通の仕事では得られない収入
フィリピンで一般的な仕事に就いた場合、得られる給料には限界があります。
長時間働いても、家賃や食費を払えば、ほとんどお金が残らないこともあります。
一方、アンヘレスのバーで人気を得た女性は、それをはるかに上回る金額を手にすることがあります。
客からのチップ。
店からの給料。
店外で客と会うことで得るお金。
外国人の恋人からの仕送り。
誕生日やクリスマスのプレゼント。
複数の収入が重なれば、かなりの金額になります。
私が見てきた中には、日本で働く一部の会社員よりも多く稼いでいるのではないかと思う女性もいました。
新しいスマートフォンを買う。
ブランド品を持つ。
高い家賃の部屋へ引っ越す。
家族のために家を建てる。
バイクや車を買う。
SNSに華やかな生活を投稿する。
最初は家族を助けるためだったとしても、一度その収入を知ってしまえば、簡単には元の生活へ戻れなくなる人もいます。
お金が必要だから働く。
しかし、やがてお金を稼ぐことそのものに魅力を感じ始める。
そうした女性がいることも、現実の一つだと思います。
行為の一つひとつに値段がつく
実際に女性たちへ話を聞くと、サービスの内容によって追加料金を決めているという話が出てくることがあります。
コンドームを使用しない行為。
膣内での射精。
アナルセックス。
女性によって条件や金額は異なりますが、危険性の高い行為ほど高い金額を求めるケースがあります。
非常に生々しい話です。
しかし、これも私がインタビューの中で耳にしたアンヘレスの現実です。
女性側も、まったく危険を知らないわけではありません。
危険だからこそ、通常とは別の料金をつけているとも考えられます。
しかし、追加でもらえる目の前のお金と、自分の身体や将来に起こるかもしれない危険を比べた時、目の前のお金を選んでしまう。
そこには生活の苦しさだけでなく、お金の持つ強い魅力もあるのだと思います。
高校へ通う一人の女の子
私が話を聞いた女性の中に、今でも強く印象に残っている女の子がいます。
彼女は高校へ通っていました。
そして私に、こう話しました。
「私は高校をきちんと卒業して、将来はちゃんとした仕事に就きたい」
その言葉を聞いた時、私は彼女が自分の将来を真剣に考えているのだと思いました。
学校を卒業する。
資格や知識を身につける。
そして、いつか今の仕事を辞める。
彼女なりに、そこから抜け出すための道を考えていたのでしょう。
しかし、その一方で彼女は、コンドームを使わない行為や、膣内での射精を受け入れ、通常とは別の追加料金を取っていると話していました。
私はその話を聞き、言葉を失いました。
高校を卒業して、きちんとした仕事に就きたい。
その夢は本物なのだと思います。
しかし、その夢を実現するためにしている現在の行為が、将来の人生そのものを壊してしまう危険を持っている。
目の前の学費や生活費を稼ぐために、未来を危険にさらしているのです。
学校へ通った先にあるはずの人生
彼女は今、高校へ通っています。
勉強を続けています。
卒業後には普通の仕事に就きたいと願っています。
しかし、性感染症に感染してしまったらどうなるのか。
望まない妊娠をしてしまったらどうなるのか。
身体や心に大きな負担を抱えてしまったらどうなるのか。
その結果、学校を続けられなくなる可能性もあります。
せっかく卒業しても、その後の就職や人間関係、結婚、出産などに影響が出る可能性もあります。
もちろん、感染したから人生がすべて終わるわけではありません。
適切な検査や治療を受けながら生活している人もいます。
それでも、十分な医療知識や継続的な治療環境を持たない若い女性にとって、大きな負担になることは間違いありません。
私は彼女の話を聞きながら、
「高校を卒業するためにしていることが、高校を卒業した後の人生を壊してしまうのではないか」
と考えました。
この矛盾は、彼女一人だけの問題ではありません。
今を生きるために未来を削っている女性が、この街にはほかにもいるのかもしれません。
性感染症に対する意識
私が女性たちへ話を聞く中で、もう一つ気になったのが性感染症に対する意識です。
クラミジア。
淋病。
梅毒。
こうした病気については、検査を受けたことがある、あるいは治療を受けたことがあると話す女性がいました。
症状が身体に現れたり、仕事に支障が出たりするため、比較的意識されやすいのかもしれません。
一方で、HIV検査について聞くと、
「受けたことがない」
「私は大丈夫だと思う」
「症状がないから問題ない」
という答えが返ってくることもありました。
しかしHIVは、感染しても長期間、目立った症状が出ない場合があります。
見た目だけでは感染の有無は分かりません。
本人が気づかないまま、ほかの人へ感染させてしまう可能性もあります。
「40%」という噂について
現地では、
「あるグループの女性たちをHIV検査したところ、四割近くが陽性だった」
という話を耳にすることがあります。
しかし私は、この数字について、信頼できる公的な調査結果を確認したわけではありません。
そのため、アンヘレスで働く女性の四割がHIVに感染しているという意味で書くことはできません。
根拠の確認できない数字を、そのまま街全体の事実として広めるべきではないと思います。
ただし、そうした噂が語られるほど、現地でHIVへの不安が存在していることは事実です。
そして、危険性の高い行為が追加料金によって行われているという話を複数の女性から聞いたことも、私にとっては無視できない現実でした。
問題なのは、根拠の不明な数字を信じることではありません。
十分な検査や予防が行われていない可能性がある中で、客も女性も「自分だけは大丈夫だろう」と考えてしまうことです。
危険を背負うのは女性だけではない
性感染症の危険を背負うのは、働く女性だけではありません。
利用する男性にも同じ危険があります。
男性が、
「見た目がきれいだから大丈夫」
「若いから病気ではない」
「店で働いているから検査を受けているはずだ」
と思い込むのは危険です。
見た目では判断できません。
本人が感染に気づいていない可能性もあります。
また、男性が感染したまま日本へ帰国し、恋人や妻へ感染させてしまう可能性もあります。
アンヘレスだけで終わる問題ではないのです。
危険性の高い行為に追加料金を支払うということは、サービスを買っているだけではありません。
自分と相手の健康、そしてその後に関わる人たちの人生にまで危険を持ち込む行為でもあります。
彼女たちは危険を知らないのか
彼女たちは何も知らないのでしょうか。
私は、必ずしもそうではないと思います。
危険性を知っている女性もいます。
感染する可能性があることも分かっている。
妊娠する可能性があることも分かっている。
それでも受け入れるのです。
その理由の一つは、やはりお金です。
今日の家賃を払わなければならない。
学校の費用が必要。
家族から送金を求められている。
新しいスマートフォンが欲しい。
もっと良い生活がしたい。
理由は一人ひとり違います。
ただ、危険な行為によって通常より大きなお金が手に入ると分かれば、その誘惑に負けてしまう人もいます。
お金の魅力に取りつかれるということ
「家族のため」という言葉だけで、すべてを説明することはできません。
本当に家族のために働いている女性もいます。
学校へ通うために働いている女性もいます。
子どもを育てるために働いている女性もいます。
しかし同時に、お金の魅力に取りつかれている女性がいることも、私は否定できないと思います。
短い時間で大きなお金を得られる。
普通の仕事では買えない物を買える。
外国人から大切にされているような気分になれる。
SNSで周囲より豊かな生活を見せられる。
一度それを知ってしまうと、収入の少ない一般の仕事へ移ることが難しくなります。
月に大きな金額を稼いでいた女性が、毎日決まった時間に出勤し、少ない給料で働く生活に戻れるのか。
それは簡単なことではありません。
夢のために働き、夢から遠ざかっていく
高校へ通っていた彼女は、ちゃんとした仕事に就きたいと話していました。
その夢を、私は嘘だとは思いません。
本当にそう願っていたのだと思います。
しかし現実には、その夢を実現するためのお金を稼ぐ過程で、夢から遠ざかる危険な行為を繰り返していました。
未来のために今を犠牲にしている。
しかし、その犠牲によって未来そのものを失うかもしれない。
これほど皮肉なことはありません。
彼女を責めることは簡単です。
「なぜそんな危険なことをするのか」
「普通に働けばいい」
そう言うこともできます。
しかし彼女が生きている環境、家族の事情、普通の仕事の賃金、目の前にあるお金の大きさを知らずに、外から正論だけを言うことにも意味はないでしょう。
それでも私は、彼女の選択を肯定することはできません。
夢があるのなら、なおさら自分の身体と未来を守ってほしい。
学校へ通ってきた時間を無駄にしてほしくない。
そう強く思いました。
彼女たちは何を夢見ているのか
自分の店を持ちたい。
学校を卒業したい。
海外で働きたい。
家族のために家を建てたい。
子どもを大学へ通わせたい。
外国人と結婚したい。
今の仕事を辞めたい。
女性たちは、それぞれの夢を持っています。
しかし夢を持っていることと、その夢へ向かって正しい道を歩いていることは、必ずしも同じではありません。
大きなお金を手にしながら夢へ近づく女性もいます。
その一方で、お金を追い続けるうちに夢を見失う女性もいます。
いつか辞めようと思いながら、辞めることができなくなる。
学校を卒業するために始めた仕事を、卒業後も続ける。
将来のために稼いでいたはずが、稼ぐこと自体が目的になる。
アンヘレスでは、そうした変化も起こります。
私がこの街で考えさせられたこと
アンヘレスで働く女性たちは、単純に「かわいそうな女性」でもなければ、単純に「お金目当ての女性」でもありません。
家族のために必死で働く人もいます。
夢に向かって努力する人もいます。
目の前のお金に流される人もいます。
危険を知りながら、自分の身体を商品として扱ってしまう人もいます。
そのすべてが同じ街に存在しています。
私は高校へ通っていた彼女の言葉を、今でも思い出します。
「私は高校を卒業して、ちゃんとした仕事に就きたい」
その夢が実現していることを願います。
しかし同時に、彼女が夢を実現するために選んだ方法が、彼女の未来を壊していないことも願わずにはいられません。
アンヘレスは、ただ若い女性と外国人男性が集まる歓楽街ではありません。
夢と現実。
貧困と豊かさ。
家族への愛情と自分自身の欲望。
そして、今日を生きるために未来を危険にさらす人々。
さまざまなものが複雑に絡み合っている街です。
彼女たちはなぜ危険を冒すのか。
家族のため。
学費のため。
生活のため。
そして、お金の魅力に取りつかれているから。
そのどれか一つだけが正しい答えなのではありません。
おそらく、そのすべてが重なっているのです。
だからこそ、この街で生きる女性たちの人生を、外から簡単に決めつけることはできません。
ただ一つ言えるのは、彼女たちが今日得るお金と引き換えにしているものは、私たちが想像する以上に大きいということです。
▼アンヘレス・バリバゴの現実 ~世界中の男たちが集まる街で見た日常~
- アンヘレス・バリバゴの現実 ~世界中の男たちが集まる街で見た日常~第五章
- アンヘレス・バリバゴの現実 ~世界中の男たちが集まる街で見た日常~第四章
- アンヘレス・バリバゴの現実 ~世界中の男たちが集まる街で見た日常~第三章
- アンヘレス・バリバゴの現実 ~世界中の男たちが集まる街で見た日常~第二章
- アンヘレス・バリバゴの現実 ~世界中の男たちが集まる街で見た日常~
▼バナバ茶関連記事
- HbA1c 11→7になった話。フィリピンの“暑さと甘さ”が、僕をバナバ茶に向かわせた
- 【保存版】バナバ茶の選び方|失敗しない3つの基準(ティーバッグ・茶葉・価格の目安も)
- 【保存版】バナバ茶の飲み方|アイス・ホット・煮出しの作り方と続けるコツ
▼ 関連記事もおすすめ
-
-
- 静かな女 ― 恋が執着に変わるまで ―前編
- アンヘレスで出会った一人の男 ラーメン屋で出会った、過去を背負う男
- フィリピンが国家エネルギー緊急事態宣言!現地在住者・旅行者・投資家にも影響するエネルギー危機を徹底解説
- 【徹底解説】フィリピン・ボンボン・マルコス大統領とは何者か?
- 【完全解説】ロドリゴ・ドゥテルテの生涯:フィリピンを揺るがせた“鉄の男”の軌跡
- 【徹底解説】フィリピン人との国際結婚から生活全般 完全ガイド!!
- 【体験レビュー付き】フィリピン旅行におすすめの航空会社まとめ|値段・クラス・快適さ完全ガイド
- フィリピン人にハマる男たち〜その理由と現実〜
- フィリピンを襲った大災害の記録:地震・津波・台風・火山噴火の歴史と教訓
- フィリピンパブ 潜入シリーズ(エ〇モード全開)カワイイ子だらけでした‼‼
- 【2025年最新】フィリピンの物価は本当に安い?家族移住・留学・ノマド向け完全ガイド
- 凶悪殺人・凶悪犯罪・未解決事件(フィリピン人が関係して起きた)
-
youtube channel フィリピンラボもよろしくお願します~↓↓↓
コメント