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『マルコス家とドゥテルテ家:同盟と裏切りの現代フィリピン政治史(2016〜2025)』

  1. はじめに:フィリピン現代政治の主役たち
  2. 第1章:マルコス家とドゥテルテ家の系譜と政治的起源
    1. 1-1. マルコス家の権力の源泉
    2. 1-2. ドゥテルテ家の台頭
  3. 第2章:2022年大統領選挙と「Uniteam」の誕生の内幕
    1. 2-1. 利害の一致と共闘の打診
    2. 2-2. Uniteamの戦略と勝因
  4. 第3章:蜜月期(2022〜2023年)と政策連携
    1. 3-1. 表面的な協調体制の演出
    2. 3-2. 政策のすり合わせと実務レベルの協力
    3. 3-3. 地方行政と国家施策の摩擦
  5. 第4章:政治的綻びと対立の火種(2023〜2024年)
    1. 4-1. 見え始めた亀裂
    2. 4-2. 外交・安全保障政策での不一致
    3. 4-3. メディア・SNSを通じた非公式な応酬
  6. 第5章:『殺し屋発言』と弾劾訴追、政界を揺るがす事件
    1. 5-1. 衝撃の発言とメディアの騒然
    2. 5-2. 議会の対応と弾劾手続きの開始
    3. 5-3. 政界への波及と支持層の分断
  7. 第6章:ICCによるロドリゴ・ドゥテルテ逮捕と国際的影響
    1. 6-1. ICCの動きと逮捕状の発行
    2. 6-2. 逮捕の瞬間と政界の反応
    3. 6-3. 国際社会と国内の分断
  8. 第7章:2025年現在の情勢と未来展望
    1. 7-1. 分裂する政権、混迷の統治
    2. 7-2. 主要争点として浮上する「国家の未来像」
    3. 7-3. 次期大統領選とUniteamの終焉
    4. 7-4. フィリピン政治の行方は
  9. 終章:視覚資料による総括
    1. 📅 年表:マルコス家とドゥテルテ家の政治関係タイムライン(2016〜2025)
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はじめに:フィリピン現代政治の主役たち

フィリピンという国の政治構造は、いくつかの有力家系によって支えられてきた。なかでも、マルコス家とドゥテルテ家は、過去半世紀にわたって国の方向性を左右してきた中心的存在である。フェルディナンド・マルコス・シニアによる独裁と、その後の革命、ドゥテルテによる強権的な改革と麻薬撲滅戦争。この二つの家系は、それぞれ異なるスタイルで国民の支持を獲得しながら、政治の舞台に君臨してきた。

2022年の大統領選挙では、この二つの家系が初めて明確に手を結び、”Uniteam”という名の連携を打ち出した。ボンボン・マルコス(フェルディナンド・マルコス・ジュニア)が大統領、サラ・ドゥテルテが副大統領に就任し、フィリピン現代政治における一大連合政権が誕生したのである。

だが、2025年現在、この蜜月関係は終焉を迎え、両家の間には深刻な対立が生まれている。以下では、両家の歴史的背景、2022年選挙での連携の舞台裏、政権発足後の関係推移、そして現在の対立の構造に至るまで、時系列と相関関係を整理しながら、深堀りしていく。

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第1章:マルコス家とドゥテルテ家の系譜と政治的起源

1-1. マルコス家の権力の源泉

マルコス家の権力の始まりは、イロコス地方(特にイロコス・ノルテ)における地盤にある。祖父代から政治に関与していた一族は、フェルディナンド・マルコス・シニアの代に国家権力の中枢を握るに至る。1965年の大統領選に勝利したマルコスは、1972年には戒厳令を敷いて独裁体制を確立し、1986年のピープルパワー革命で追放されるまで、長期にわたり国を支配した。

イメルダ・マルコスはファーストレディとしての立場を超え、自身も政治家として活動。美と権力を兼ね備えた存在として世界的に注目された。また、彼らの息子であるボンボン・マルコスは、亡命生活からの帰国後、政治家としての地歩を固め、2022年に父の雪辱を果たす形で大統領に就任した。

1-2. ドゥテルテ家の台頭

一方のドゥテルテ家は、ミンダナオ島ダバオ地方を拠点にした地域的な影響力をもつ政治一家である。ロドリゴ・ドゥテルテの父、ビセンテ・ドゥテルテは元ダバオ州知事であり、戦後の地方政治で一定の影響力を持っていた。

ロドリゴ・ドゥテルテは弁護士としての経験を経て、1988年にダバオ市長に就任。その後、7期(通算20年以上)にわたりダバオ市長を務め、治安改善と経済振興を成し遂げたことで、全国的な注目を集めるようになった。2016年には大統領選に勝利し、麻薬撲滅戦争、対米自立路線、対中国接近など、強烈な個性をもった政権を展開する。

その娘であるサラ・ドゥテルテも、父の地盤を継いでダバオ市長に就任し、2022年には副大統領となる。ドゥテルテ家は、地元志向から国家権力へと上り詰めた象徴的な一族といえる。

第2章:2022年大統領選挙と「Uniteam」の誕生の内幕

2-1. 利害の一致と共闘の打診

2021年後半、次期大統領選挙を巡って各陣営の動きが活発になる中、ボンボン・マルコスは明確に出馬の意志を表明した。マルコス家はイロコス地方を中心とした北部での強固な地盤を持っていたが、国全体の勝利には南部ミンダナオの票が不可欠であった。

当初、サラ・ドゥテルテも大統領選出馬の可能性を示唆していたが、父ロドリゴは自身の側近であるボン・ゴー(Christopher “Bong” Go)を支持していた。そのため、サラは出馬を躊躇していた時期もあり、政治的駆け引きが続いていた。

最終的にサラが副大統領選挙への出馬を選び、ボンボン・マルコスとの連携が決定する。この背景には、ロドリゴ・ドゥテルテとマルコス陣営の交渉、各地の有力政治家の介入、財界・軍部の思惑など複数の要素が絡んでいたとされる。

2-2. Uniteamの戦略と勝因

Uniteamは北部と南部の地盤を統合することで、従来分裂していた国家政治を再編する「統一の象徴」として国民にアピールした。また、SNSを駆使した若者向けプロパガンダ、マルコス家の汚名返上キャンペーン、ドゥテルテ政権の人気取り込みなど、多面的な戦略が功を奏した。

2022年5月の選挙では、ボンボンが過去最高の票数で当選、サラも圧倒的得票率で副大統領に就任。Uniteamは歴史的勝利を収めた。

第3章:蜜月期(2022〜2023年)と政策連携

3-1. 表面的な協調体制の演出

2022年6月30日、フェルディナンド・マルコス・ジュニアが大統領に、サラ・ドゥテルテが副大統領にそれぞれ正式に就任した。大統領府の前で行われた就任式典では、両者は笑顔で握手を交わし、国民に対して「協調」と「団結」を印象づける演出がなされた。サラは同時に教育相にも任命され、「副大統領かつ閣僚」という強い権限を持つ立場に置かれた。

初期の記者会見や施政方針演説では、「教育改革」「経済回復」「インフラ投資拡大」などの分野で一致を見せ、政権の安定感を国民に印象づけることに成功していた。

3-2. 政策のすり合わせと実務レベルの協力

教育政策においては、サラが推進する「対面授業の完全復活」や「学習内容の近代化」などが注目された。これはパンデミック後の教育環境再建において重要なテーマであり、ボンボン政権もこれを支持する姿勢を示した。

一方、マルコス政権が重視したのは、経済再生と農業・エネルギー政策であった。石油価格高騰とインフレのなか、政府は燃料補助金制度や輸入規制緩和などの短期的措置を次々に打ち出した。

このような施策は表面的には連携しているように見えたが、実際には政策の優先順位やリソースの配分で食い違いも生じていた。たとえば、サラ副大統領の提案した「軍事教育の義務化」については、ボンボン政権内の一部から慎重論が出され、実現には至らなかった。

3-3. 地方行政と国家施策の摩擦

もうひとつの摩擦点は「地方対中央」の視点である。サラは元ダバオ市長として、地方分権を重視し、教育や保健の予算配分において地方自治体の裁量を増やすべきだと主張した。しかし、マルコス大統領とその経済ブレーンは、国家主導型のマクロ経済計画を優先し、中央集権的な予算管理を維持しようとした。

これにより、政策形成の場面ではしばしば意見の不一致が表面化し、議会や内閣会議でも緊張が走るようになっていった。

第4章:政治的綻びと対立の火種(2023〜2024年)

4-1. 見え始めた亀裂

2023年の中頃から、ボンボン・マルコスとサラ・ドゥテルテの関係に徐々に亀裂が生じ始める。発端となったのは、教育省の予算執行方針を巡る見解の相違だった。サラ副大統領が掲げていた「義務軍事教育の全国導入」構想が、マルコス政権の一部閣僚から「時代錯誤」と批判され、棚上げされたことで、サラ陣営には不満が蓄積していた。

また、サラが主導した一部の教育改革法案が議会で否決された際、マルコス政権が積極的な支援を行わなかったことも、関係悪化の一因とされている。これにより、Uniteam内部で「政権の軸はあくまでマルコス家にある」との印象が強まり、サラ支持層は次第に疎外感を抱くようになった。

4-2. 外交・安全保障政策での不一致

外交政策でも両者の立場に差が生じた。マルコス大統領はアメリカとの安全保障関係を再強化し、南シナ海における海軍演習を再開するなど、米比関係の修復に尽力した。一方で、ドゥテルテ陣営は「反米・親中」政策を一貫して掲げてきたため、この外交転換は明確な政策の断絶を意味していた。

さらに、麻薬政策の路線でも対立が生じた。ドゥテルテ時代の「超法規的取り締まり」をマルコス政権は見直し、「人権尊重」を前面に出した穏健路線へと舵を切った。この方針に対して、父ロドリゴ・ドゥテルテはメディアを通じて「マルコスは弱腰だ」と痛烈に批判した。

4-3. メディア・SNSを通じた非公式な応酬

2024年に入ると、両家の対立はメディアやSNSを通じて、より可視化されるようになる。サラ・ドゥテルテが自身のFacebookアカウントで意味深な発言を繰り返し、支持者が「裏切り者は誰だ」といったメッセージを拡散するなど、政権内に明確な分裂があることが世論に広く認識され始めた。

ロドリゴ・ドゥテルテは地方での集会で「娘は利用された」「マルコスはドゥテルテを踏み台にした」と発言。これに対し、マルコス陣営は「前政権の遺産に依存しない独立国家運営が必要だ」と反論し、全面的な対立構図が明らかとなった。



第5章:『殺し屋発言』と弾劾訴追、政界を揺るがす事件

5-1. 衝撃の発言とメディアの騒然

2024年11月、サラ・ドゥテルテ副大統領は突如としてオンライン会見を開き、国内外のメディアに向けて次のような発言を行った。

「私は殺されるかもしれません。だから、もし私に何かあれば、私を殺した者に報復してください。名前は挙げませんが、皆さんはすでにご存じでしょう。大統領夫妻、そして下院議長です。」

この発言は国内に衝撃を与え、各種メディアが一斉に報道。SNSでも「#暗殺未遂」「#Uniteam崩壊」といったハッシュタグがトレンド入りし、政治不信が一気に広がった。

5-2. 議会の対応と弾劾手続きの開始

大統領府は直後に「副大統領の発言は極めて無責任であり、国家の秩序を乱す行為だ」と厳しく非難。下院議員の一部が主導する形で、サラ・ドゥテルテに対する弾劾訴追案が提出された。内容は「大統領の名誉毀損」「治安不安を煽動」「政権転覆の意図がある」などを根拠としていた。

2025年2月、下院本会議にて弾劾訴追案は賛成多数で可決。これにより、フィリピン史上初めて「副大統領が弾劾される」という事態が現実となった。

5-3. 政界への波及と支持層の分断

弾劾の動きは政界にも大きな波紋を広げた。ドゥテルテ派の議員や地方自治体首長の多くは、サラ副大統領の発言には距離を置きつつも、「弾劾は行き過ぎ」として反対姿勢を示した。

一方、マルコス派は「政権の安定と秩序回復のためにやむを得ない措置」として弾劾を正当化。国会はマルコス支持とドゥテルテ支持で二分され、立法機能にも影響が出始めた。

国民の世論も割れており、調査会社「Social Weather Stations(SWS)」の2025年3月の調査によれば、サラ副大統領の弾劾に賛成する者が47%、反対が41%、無回答が12%という結果が出ている。特に南部ミンダナオでは「政権による弾圧」という見方が強く、反マルコス感情が急速に高まっている。


第6章:ICCによるロドリゴ・ドゥテルテ逮捕と国際的影響

6-1. ICCの動きと逮捕状の発行

2025年3月、国際刑事裁判所(ICC)はロドリゴ・ドゥテルテ前大統領に対して正式な逮捕状を発行した。容疑は「人道に対する罪」、すなわち2016年からの麻薬撲滅戦争における超法規的処刑や拷問などが多数報告されたことに基づいている。

この逮捕状は2021年から進められていた予備審査を経ての決定であり、政権交代後の2023年以降、フィリピン政府がICCへの協力姿勢を見せ始めたことが背景にある。

6-2. 逮捕の瞬間と政界の反応

ドゥテルテ前大統領はダバオ市内の自宅にいたところを、国家警察の特別部隊により拘束された。これに先立ちICCからの拘束協力要請を受け、マルコス政権は「国際法を尊重する立場から」協力する方針を公表していた。

逮捕直後、ドゥテルテ支持者らが各地で抗議デモを実施。ミンダナオでは一部が暴徒化し、政府施設への放火や道路封鎖も発生した。サラ・ドゥテルテ副大統領は「これは政治的迫害である」と厳しく批判し、自ら父の弁護団に名を連ねることを発表した。

6-3. 国際社会と国内の分断

国際社会ではこの逮捕に対しておおむね肯定的な反応が見られ、EUやカナダ、国連人権理事会などが支持を表明。一方、中国やロシアは「内政干渉」としてフィリピン政府を批判し、ASEAN内部でも意見が分かれる形となった。

国内では、ドゥテルテ支持派とマルコス政権支持派の間の分断が一層深まり、SNSや報道機関では感情的な対立が激化している。フィリピンの司法制度や主権に対する議論も活発化し、「国際法と国内法の整合性」が新たな争点として浮上している。

第7章:2025年現在の情勢と未来展望

7-1. 分裂する政権、混迷の統治

2025年5月現在、マルコス政権は表面的には安定を装っているが、実態はかつてないほどの分裂状態にある。副大統領弾劾と前大統領の逮捕を経て、政府内にはマルコス系・ドゥテルテ系の2つの権力ブロックが存在しており、議会、閣僚、地方自治体、さらには軍内部にまで影響を及ぼしている。

サラ・ドゥテルテは副大統領職を継続しながらも、閣議への出席を拒否し、事実上の“独立副大統領”として活動している。彼女は自派の地方首長・議員と連携し、2028年の大統領選挙出馬を視野に入れた動きを強めており、政権内のパラレル構造が鮮明化している。

7-2. 主要争点として浮上する「国家の未来像」

両者の対立は単なる個人間の確執を超え、フィリピンの進路そのものをめぐる理念的な対立へと変化しつつある。

  • マルコス派:国際協調、経済改革、人権重視、伝統回帰
  • ドゥテルテ派:強権体制、安全保障重視、反エリート、親中主義

この2つのビジョンは、外交、内政、教育、司法、人権政策などあらゆる面で鋭く対立しており、両者の妥協点は見えない状況にある。

7-3. 次期大統領選とUniteamの終焉

2025年中間選挙を前にして、既に2028年大統領選挙に向けた前哨戦が始まっている。サラ・ドゥテルテは自らの派閥を強化し、保守・地方志向の政治勢力を糾合。一方で、マルコス大統領は与党Lakas-CMDの支配を通じて中央集権型の政権基盤を固めている。

Uniteamという一時的な政治連合は、2022年選挙のために成立した「利害の一致の産物」にすぎなかったことが、今では誰の目にも明らかとなった。もはやこの名称を使う政治家すらいなくなり、政界からは「次の分断を見越した新たな政治再編が始まっている」との見方が支配的だ。

7-4. フィリピン政治の行方は

国民の間では「もう家族政治はうんざりだ」という声も高まりつつあるが、依然としてマルコス家とドゥテルテ家の影響力は絶大である。経済格差、治安不安、腐敗、雇用問題など、政治改革よりも目の前の生活問題を優先する有権者が多いため、短期的に既得権益構造が変わる可能性は低いとされる。

今後の焦点は以下に集まっている:

  • サラ・ドゥテルテは弾劾を乗り越えて次期大統領候補になれるのか?
  • マルコス政権はICC協力の代償として国内政治を維持できるのか?
  • 地方と中央のパワーバランスはどう変化するのか?

これらの問いに対する答えは、2025年中間選挙と2028年大統領選を通じて示されることになる。


終章:視覚資料による総括

📅 年表:マルコス家とドゥテルテ家の政治関係タイムライン(2016〜2025)

年月 出来事
2016年6月 ロドリゴ・ドゥテルテ大統領就任
2019年5月 ボンボン・マルコス、選挙不正の訴え棄却
2021年11月 サラ・ドゥテルテ、副大統領選出馬を表明、ボンボンと共闘へ
2022年5月 ボンボン・マルコス大統領、サラ副大統領に当選(Uniteam成立)
2023年6月 ドゥテルテ元大統領、マルコスを「弱腰」と公然批判
2024年11月 サラ副大統領「殺し屋発言」→2025年2月に弾劾訴追へ
2025年3月 ロドリゴ・ドゥテルテ、ICCによる逮捕

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